一両目 おばあちゃんのバタークリームケーキ

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曳野は日万里ちゃんに訊いた。 「日万里ちゃんはこのままここへ泊る?」 「泊りたい。おばあちゃん、いい?」 「いいわよ。好きなだけいなさい」 「いいの!?」 日万里ちゃんは心の底から嬉しい顔をした。 「ありがとう、探偵のおじさんとお姉さん」 曳野とウサミミは日万里ちゃんに丁寧にお礼を言われて、おばあちゃんの家を後にした。 金沢文庫駅のホームでウサミミが曳野を見ると、何か思いつめたように元気がない。 「元気ありませんが、どうしました?」 曳野は少し遠くを見ながら「ああいう子を見るとどうしても思いだす事がある」と昔の話を始めた。 「リュックを背負った一人の幼児が駅で保護された。その子は「おばあちゃんちに行きたい」と訴えたが、それは無視されて鉄道会社と警察は両親を呼びだし引き取らせた。その子はその家出からわずか3カ月後に自宅で死んだ。その子の体には散々殴られたあとがあった」 その話はウサミミに大きな衝撃を与えた。 「それって…、親に殺されたってことですか?」 「ああ。その子は被虐待児だった。つまりその子は虐待から逃れるために自分でリュックに着替えとオモチャを詰めておばあちゃんのところへ行こうとしていたんだ。でもそんな事情を分からない周囲は親に連絡して引き取らせた。最悪の結果になってから周囲はようやく気付くんだ。子どもは重大なSOSを出していたのに。日万里ちゃんからも似た感じがしてね。それでいろいろ質問してみたんだが、あまりいい結果は出なかった」 曳野が日万里ちゃんに質問していた理由は変な目的ではなく、家での状況を探る為だった。
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