一 事故

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一 事故

a9bdd74b-c65a-42c9-befc-5feb0e2e62d0  二〇八〇年、九月九日、月曜。  南コロンビア連邦、ベネズエラ、ギアナ高地、テーブルマウンテン、テプイ 『レグ!予定どおりシールドしたぜ!あとはその先を塞ぐだけだ!』  ザックは思念波を放ちながら、巨大な円筒状のトンネルシールド機から降りた。いつもトムソを監視しているモーザが、今は坑道にいない。ザックはその異変に気づいていなかった。  二機の採掘車が作業を停止した。  ショベルマシンを搭載した二機の巨大な鉱石運搬車が採掘車の周囲から岩石を積みこんで、テクタイト鋼でシールドされたばかりの坑道を走っている。この第十三坑道は、大坑道から直角に延びた最も長い直線の坑道で、直径が十メートルを越えている。 『どうした、レグ?なぜ、返事しないんだ?』  ザックは、巨大な円筒状のトンネルシールド機から降りて、採掘車のコクピットに向って思念波を放った。  採掘車のエンジンが停止した。ハッチが開いてレグが顔を出した。 「なあ、ザック。このあいだから、誰かが俺に、早くこの岩盤の先まで掘れと言っている気がしてならないんだ・・・・」  レグは、何度も見ている夢を思い出しながら採掘車の前の岩盤を示した。  レグは最近、睡眠のたびに夢を見ていた。 『夢の中で、俺は暗いシャフトの上にある立体の上から落下した。身体はシャフトの側壁に叩きつけられて無惨に破壊した。  この岩盤の先にシャフトがあってその側壁に俺が居る。そんな気がしてならない・・・。  俺たちトムソはモーザに管理され、働いて眠る。モーザに管理されて夢を見ない。夢が何か誰も知らない。俺とガルとバレリを除いて・・・』  レグは他のトムソとモーザに気づかれぬよう、それとなく他チームのガルとバレリに夢の記憶を思念波にして送っていた。  レグの話を聞いて、ザックは呆れた。 「そんな馬鹿な。そんな事を言う奴なんかいないさ。ここは、地表から六百メートルの地下だ。何なら、確かめようか・・・」  ザックは岩盤に近づいて全身を硬直させた。額にある二本の触覚が震えて岩盤の先の気配を探った。すると異変を感じた。  なんてこった!確かに岩盤の先から何か伝わってくる・・・。何か響いてる。それにかなりの熱さだ・・・。 『マックス!運搬車のミカとノバを連れてここに来い!』  ザックはトンネルシールド機に戻ろうとして、もう一機の採掘車へ思念波を送った。 「ザック!エコーを見ろ!さっきまでなかったのに、シャフトが現れた!巨大なやつだ!」  採掘車のレグはザックを呼びもどして、コクピットの3D映像を示した。地中レーダーの画像は十数メートル先の岩盤内に巨大な空間を示している。 「深さは測れない。高さも直径もだ・・・」  地中レーダーの電磁エコー捕捉域は二十メートルほどだ。    突然、画像が乱れて警報が鳴った。 「何だ?」 「磁場だ!強烈な磁場だっ!  マックス!戻れ!ミカとノバを連れて採掘車で岩盤へ逃げろ!  ザック!逃げるぞ!早く乗れ!」  坑道を戻る時間はなかった。ザックを乗せた、採掘車はレーザー掘削機と大型回転掘削機を使って、坑道の未シールド部から直角に岩盤を掘りはじめた。  一瞬に、坑道をシールドしたテクタイト鋼板が放電して括れた。採掘車のコクピットは歪んで、計器がショートして燃えあがった。トムソの身体を包むテクタイト装甲の関節部が歪んだ。 「ウワッ!」  装甲の関節部はテクタイトの外部ヒンジは、円筒状のテクタイトを組みあわせて可動性を増してある。その関節部が一瞬に括れた。 「アアッ!」  トムソたちの腕と脚が血飛沫を上げて千切れ跳んだ。同時に、凄まじい衝撃波とともにシャフト側の岩盤が轟音を立てて坑道へ崩れた。  坑道を覆う巨大な円筒状のテクタイト鋼板は括れて、トンネルシールド機と二機の巨大な鉱石運搬車が捻り潰されたように変形して吹き飛んで、二台の採掘車が凄まじい勢いで坑道へ弾きだされた。  しばらくすると、歪んだ坑道の空中に、直径三十センチほどのモーザと呼ばれる球体がグリーンに輝いて現れた。破壊して原型を留めないトンネルシールド機と二機の巨大な鉱石運搬車と二台の採掘車にグリーンの光を照射して、異変を確認している。
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