追想

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どうしてみんな僕を見てくれないの、見てよ、見てよ、見てよ── 僕はそう思ってベッドに寝ていた少年に悪戯をした。 コップ1杯の水に絵の具を溶かした液体を少年にぶちまけた。さらに彼の部屋にその絵の具でたくさんの落書きを施した。本当に小さな小さな出来心で僕は、その少年に報いようとした。…そのあとのことはよく覚えていない。 お母様にこっぴどく怒られて、たくさんアザができた。 悪い子にはお仕置きがある、とお母様はそう言うと余所行きの服に着替え始めた。僕も服を強引に着替えさせられた。 そして最初の記憶に戻る。 「×××、あなたはいい子だからお母さんが戻ってくるまで待てるわね?」 ──あぁ、そうか。僕は。 たくさんの記憶が浮かんでは通り過ぎていく。 時系列もめちゃくちゃで、細部は曖昧なところもある。 でもなぜだろう。 浮かんでくる記憶は全部冷たくて、灰色で、どこか現実感に欠けていた。 実際に起きた事実であるはずなのに、なぜか僕は現実味を感じられずにいて。 そしてまた、浅い眠りから覚めるのだ。
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