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「呼び出して何か急用?」
「いや、愛美から電話が来た」
「えっ?」
「会いに来たけど怒らせて帰ってしまったと・・・・・」
仕事の話かと思って身構えたのにそんな話なのか。
その時の事が思い出されてムカムカしてくる。
「愛美・・・お前の他に子供がいたんだってな」
「理玖っていったかな。目にかけてやってほしいなんて言いやがるから・・・・誰の子かもわからないやつ弟じゃないって言ったんだ」
「それはないだろう。愛美の子なら確実にお前の弟だ」
「急に弟だとか言われて納得できるわけがないだろ?あの女ならあり得るから余計腹が立つ」
「アイツもいろいろある女なんだ。父親は調べてやる。だから邪険にするな。たった一人の母親だぞ」
「オヤジの母親(藤子)は立派だし、姐さんだし、みんなに慕われていたからこんな悩みなんてなかったんだろ。俺はガキの時からアイツの男好きに悩まされて・・・・どんだけ嫌な思いしたかわかるか?」
「男にとって母親は初恋の相手であり、純潔であってほしいんだろうけど、俺も含め、大人なんて偉いもんじゃない。だらしないところもあるし、欲にまみれることもある」
「まみれ過ぎだろ、あの女は・・・・・」
「桂斗、良く聴け。愛美は母親の再婚相手の男に乱暴されて、故郷(青森)から家出して東京へ出てきて・・・・・銀座のママに上り詰めるまでに相当苦労した女だ。お水の世界に疲れてた頃に俺と出会った。
女一人が東京に出てきて、頼るところなく生きていくのは大変なことなんだ。特に熾烈な競争社会の夜の世界で成功するのは並大抵のことじゃない」
「・・・・・そんなこと・・・・聞いたって・・・・・」
「アイツが大人の男とうまくいかないのは、義父との歪んだ関係のせいだ。そのせいで大人の男を愛せなくて、それが原因でヒモ男とか若い男に貢いで不幸になるって人生を続けてるんだ」
「そんなの自分で変えないといけないだろ!自分で断ち切らなきゃ不幸から這い上がれないじゃないか。自分が悪いんじゃないか!」
「正論だが・・・・じゃあ、お前は自分の血とか、育った環境に影響されずに自分を変えてこれたのか?」
「うっ・・・・」
思わず絶句した。自分で作り上げたものなど一つもない。与えられた環境に適応して生きてきたに過ぎない。
「俺だって、極道の家に生まれて・・・・今も、そのしがらみを断とうとしても断ち切れないでいる」
「・・・・・・・」
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