第9楽章

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「お前は自分の起源やシガラミを振り払って自由に生きられているのか?自由に生きているように見えても、自分の中の起源から出られていないんじゃないか?」 そうかもしれない。 愛美に似た性格、彼女に起因した好き嫌い、嫌だった思い出に対する反抗・・・・すべては愛美から始まっている。 自分が女を好きにならなかったのは・・・・・愛美への・・・・愛美と似た者への嫌悪。 「俺たちは自分から作り出すものなんてほんのわずかなんだ。嫌だと思う前に、自分の根っこを理解して、消化して、その上にお前の思うものを作ればいい」 「オヤジ・・・・・・」 「俺はお前の小さい時を知らない。それも罪だと思ってるよ。愛美だけが悪いんじゃない。それだけは理解してやってくれ」 「ふぅ・・・・・・」 「急に理解できるわけもないからな。徐々にでいいんだ」 「俺に・・・・出来るかな?」 「出来るさ・・・・お前は俺の息子だ。それに、雷文の後継ぎだ」 「ありがとう」 床に目を落として苦笑した。 言われたからってすぐに消化できるわけもない。 これは大人になるにつれてゆっくりと溶けていくものなんだろう。 まだどこかに怒りは残っている。幼いころの恨みも消えない。 俺が大人になる過程で溶けていけば、また愛美に会うことができるのかもしれない。 オヤジってすげぇな。 ただの色ボケ野郎だと思っていたのに・・・・・・本当に手の届かない壁として俺の前に立ちはだかってる。 でも前みたいに恐怖や恐れはない。尊敬とか憧れといったポジティブな意味での壁なんだ。 彼の後を追ってリビングに戻る。 そこには満面の笑みでモンブランを食べる雪兎がいた。 俺はコイツを不幸にしようとしたんだな・・・なんてひどい人間だったか。 コイツの笑顔に今までどれだけ癒されたか・・・・・佐竹だってそうだろ? 一緒に雷文組を、雪兎を守りたい・・・・・そう心から思った。 いつか解けるだろう”わだかまり”を持ったまま、しかし時は待ってはくれない。自分を取り巻く歯車が性急に回りだしたことに、この時の俺はまだ気が付かなかった。 母・城崎愛美のぬくもりを感じることができたのは・・・佐竹と尋ねた、あの時が最後となる。 後悔しても、自分の発した言葉や取ってしまった行動は元には戻らない。 傷つけてしまったことに後悔の念が残ることになった。
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