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虎太郎がいなくなった後、キッチンでお茶の支度をしている佐竹さんに話しかけた。
「なんだか・・・・・また、桂斗変わった気がするけど何かあったんですか?」
「雪兎さん・・・・・・」
「佐竹さん、桂斗のこと、どう思っていますか?今まで貴方の口からハッキリきいたことなかったけど・・・・・」
「それを聞いてどうされる気ですか」
「どうって・・・・・桂斗は佐竹さんが好きです。彼から直接聞いたんでしょ?」
「ええ、言われました」
佐竹は手を組んでじっと見つめている。指先は所在なさげに宙を泳ぐ。
「応える気はないんですか?」
「今までは・・・・・応えるつもりはありませんでした」
「今まではって事は・・・・これからは・・・・?」
「スイマセン。まだ迷っています」
「なんで?桂斗の事好きですよね」
「でも私個人の感情ではどうしようもできない事でしょ?」
「なんでですか!」
「彼は組長なんです。雷文のすべてを肩に背負っている」
「一緒に背負えばいいじゃないですか。僕と違って貴方なら有能だし、彼の重荷を分担してあげることだってできるじゃないですか」
「私は部下として彼を支えていくつもりでおります。しかし恋人には・・・・・」
「どうして?」
「彼は組長としてしっかりした女性を選んで、後継ぎを作り・・・・」
僕はキッチンカウンターの傍にある小窓の方に歩を進めた。温かい日差しに顔を向ける。少し自分のことを言われたみたいで胸がチリチリ痛む。
「佐竹さん。僕も虎太郎から組長の責務を奪ってしまったんだ。
姐さんにはなれないし、子供も産んであげられない。虎太郎には桂斗がいたからいいけど、僕は彼にしてあげられないことがたくさんある」
「いや、それは・・・・・・」
「それでも、虎太郎はそんな僕でもいいって、そのことで責任を感じることはないと言ってくれた。桂斗だってそう思っているはずだよ」
「失礼なことを申し上げたことは謝罪します。しかし、それを坊ちゃんに当てはめるのはどうかと思います」
「どうしてですか?桂斗の思いがどれだけ深いか、貴方は知っているでしょ?」
「深いからこそ・・・・・私ではいけないんです」
「そんなこと・・・・・僕にはわかりません」
感情的になってカウンターの天板をバンと叩いた。
想いあっているのに、お互い愛し合っているのになぜいけないんだ?
佐竹の心がわからない。彼にはなにか思惑でもあるのだろうか。
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