第9楽章

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「ええ、私も彼の幸福を望みます」 佐竹さんはにっこりほほ笑んだ。その微笑みはとても柔らかで穏やかなものだった。僕もこの二人の判断を待とう。そして幸せを神様に祈ろう。 ココアと珈琲を佐竹さんが用意し、お盆に乗せた。お砂糖やミルクは僕がテーブルに運ぶ。悲しい顔をした佐竹の表情はいつものソレに変わっている。 急に、彼の大きな体に似合わない小さな箱を取り出して、こちらに差し出してきた。 「途中でケーキ買ってきました。雪兎さんが好きなモンブランです」 「えっ!うそー」 「坊ちゃんが、雪兎さんは『ケーキはモンブランに限る』っていうものですから・・・・モンブランも二種類あって、定番の黄色いモンブランと渋皮煮のモンブランとあったので、二つとも買いました」 「桂斗がそうしろって?」 「ええ」 「優しいね・・・・相変わらず」 「貴方にだけですよ。若も、坊ちゃんも貴方には大甘です」 「ええ、本当に二人とも大好きです。僕が力になれることは微々たるものだけど、少しでも力にはなりたいと思います」 「一つだけ・・・・・坊ちゃんの誤解を解いていいですか」 「なんですか?」 「彼は、あの日の事・・・・・ずっと・・・・・ずっと・・・・・大切にしていました。 貴方には悪夢のような夜かもしれませんが、幼いころから何年も貴方を想い続けた気持ちが溢れてしまったのです。 今は悔やんでおられますし、すまないと思っておられます」 「はい、わかっています。あの時はショックなことが続いて・・・・僕も気持ちがもたなかった。彼の暴走も止められなかったし、半分受け入れたのも僕自身なんです。彼だけが悪いとは思っていません」 「よかった、坊ちゃんの心の中にいつも引っかかっていることなので。雪兎さんにツラく思われていると彼もツラいのです」 「佐竹さんは、桂斗の気持ちまでお見通しなんですね」 「そうでもないですよ。全然わからないことも多いです。突拍子もないこともしますしね」 「すごい発想することがあるよね」 「しなやかで、芯が強くて、本当に困るくらい”じゃじゃ馬”です」 「ふふ・・・・・佐竹さんの気持ちがこもってる」 「これを食べて、泣き顔を直してください。若に咎められますよ」 「スイマセン」 急いでキッチンからケーキ用のお皿を4枚とケーキ用のフォークを持ってソファ戻った。
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