第10楽章

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今日も寒い。 学校は高校入試で一週間休みになってしまう。 その前に犯人の目星くらいはつけたい。 白い息を吐きなが徒歩で学校に急いだ。 「桂斗、おはよう」 「あっ、隆弘。おはよ」 後ろから肩をたたいてきたのは親友の隆弘だ。 「今日はちょー寒いな」 「あと一週間で休みだから頑張るしかないよな」 「ああ」 「今日は午後から雪だってさ」 「どうりで寒いわけだ」 ダッフルコートの襟もとをギュッと掴んだ。 ウチの学校は冬服はエンブレムの付いたブレザーにチェックのズボン、水色のシャツにズボンと同じ配色のネクタイだ。それに今みたいな寒い時期は、ブレザーの中にセーター、コートはダッフルを着用していいことになっている。 俺はこのダッフルコートが似合わない。 こういうのは似合う似合わないがはっきり出てしまう。 私服だったらダッフルは絶対買っていない。 隆弘は甘いマスクで身長は俺より少し高い。髪色も黒くて、ダッフルコートもしっくり着こなせている。 「今日の午後、体育だからその前に雪積もらないかな」 「積もったら体育館だもんな」 「マラソンなんてヤだよ~、おもしろくねぇ。サッカーとかだったらいいんだけど」 「だよな」 ごくごく普通の会話・・・・こういうのってホッとする。 年相応の会話が自分の心を癒してくれる。 だけど、犯人を突き止めるのは6日しかないということだ。 そう悠長に高校生活を楽しんでいる時間はない。 「土曜日、学校休んだけどなんかあった?」 「ん、ちょっと頭痛くてさ」 「熱出たのか?」 「いや、ゲームのやり過ぎで目が乾いたのかも」 「おい、この時期ゲームやれてて余裕だな」 「まぁ、受験しないからな」 「他の奴らに言うなよ。気が立っているから」 「そだな。気を付けるよ」 そう云いながら教室の前で別れた。 冬の日差しが教室の中に深く差し込んで、部屋の中は割と温かい。 コートを脱いでロッカーに入れると、ジャケット脱いで椅子に掛けた。 ポカポカして眠くなりそうだ。古文の時間だから余計眠い。 動詞の活用ってなんだ?・・・・考える間もなく睡魔に襲われた。 この貴重な子どもの時間を奪われるのは本当に気が重い。友達の颯太が絡んでいるとなるとなおさらだ。 犯人が知り合いでなければいいな。
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