第10楽章

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みんな篠崎に関係しそうなヤツばっかりじゃないか。 そう云えば隆弘とよく話してはいるけれど、自分の家族の事とか話したことがなかった。家に行ったことあるのは颯太だけだったし、家族関係や職業なんて聞いたこともなかった。 進路の話の時家業を継ぐとか話していたけど、やはり経営者なんだろうか。仕事の内容も聞いたことがない。 急いで隆弘のメモを読む。 【佐々山 隆弘】 住所・・・・杉並区久我山・・・・吉祥寺に近い。 親父さんの職業は・・・・国家公務員?会社経営じゃなかったのか? 今まで少しだけ家族の事も話したことがあるけれど、会社経営だって嘘をつかれた。自分も嘘をついているからお相子(あいこ)なのかもしれないが、隆弘に嘘をつかれたことが酷くショックで動揺してしまう。 『坊ちゃん、大丈夫ですか?』 「なんでだ?」 『今までご友人の身体検査はするなと言っていらっしゃったので・・・・ショックうけていませんか?』 「それなりにショックだ」 佐竹は声だけで俺の心の中まで言い当てる。お前はエスパーか? 今まで家に行ったことがあるのは颯太だけだ。家族構成や父親の職業を知っているのも颯太だけ。毎日つるんで、結構話をしていると思ったのに、案外お互いの事を知らないものだ。 実はみんな俺が雷文組の組長と知っていて、探る目的でダチのふりをしてつるんでたとも思えてくる。 みんなを疑うのが嫌で身体検査を拒んでいた自分は、やっぱり組長として甘すぎた。身元を明らかにしてこそ、信頼できる友人として付き合えたのだ。 『坊ちゃん?』 「お前は伸也と稜を調べておいてくれ」 『佐々山君は?』 「俺が調べる」 一番知りたくて、一番本当のことを知りたくないやつ・・・・・でも自分で真実を知るべきなんだと思う。隆弘とこれからも親友であるために・・・・・。 アイツは俺の親子関係から、恋愛話まで親身に聞いてくれた。アイツから話したのは同じ高校生の女を好きになったけど、その女には相手がいるってことだけだった。 俺は隆弘の事を何も知らない。 なのにインフルエンザの時は保健室まで背負ってもらったり、佐竹へのプレゼントを一緒に選びに行ったり・・・・・一番本音で話せる奴だった。 隆弘を疑うことになるなんて・・・・・まだ心の中で信じたい気持ちの方が勝っている。 佐竹には隆弘と帰るから遅くなることを告げ電話を切る。 俺は補講を済ませて帰って来る隆弘を待つことにした。
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