第9楽章

4/18
前へ
/121ページ
次へ
「誰かと買い物するとか・・・・久しぶりだな。クリスマスプレゼント買いに隆弘と行ったとき以来だ」 「隆弘くんって」 「佐々山 隆弘、一番の親友かな。お互いの事一番喋るかもしれない」 「極道ってことも?」 「それは言ってない・・・・捲き込んだらいやだし」 俺は助手席でポップコーンを食べながら行先を見つめていた。十分友達を巻き込んでしまっている。颯太の方も早く解決してやらないといけない。 地方都市の商店街。そこそこ賑わっている通りだった。 佐竹はコインパーキングに車を止めると俺の手を握った。 顔が赤く染まって耳まで熱を帯びる。こんなの反則だろ。デートじゃないって言ったじゃやないか。 一軒のスナックの前まで来ると躊躇なくドアを開けた。 「おい、まだ営業まえ・・・・」 店のママらしき女性(ひと)が振り向く。びっくりしたような顔をした後、満面の笑みを零した。 「桂斗・・・・・?」 「ま・・・・なみ・・・・」 10歳の時に別れたきりの母親・愛美の姿がそこにあった。 「佐竹!どういうことだ」 「坊ちゃんに会っていただきたかったんです」 愛美は近づいてきて頬を両手で包み込む。目にはいっぱい涙を浮かべていた。 「大きくなって・・・・立派になったね」 「そうでもねぇ。まだ半人前だからまだ会うのは先にしておこうと思ったのに」 「ううん、すごい立派だよ。ジャニーズ系みたいでカッコいいし。本当に私の息子なのかしら」 「ほめ過ぎだ」 愛美は店のカウンターに佐竹と俺を招き入れて座るように促した。中で温かい紅茶を淹れてくれる。 感慨深げにこちらを見ながらひとつため息をつく。 「もう7年近いんだね。早いね、時がたつのは・・・・まだほんの子供だったのに・・・・」 「当たり前だ」 「虎太郎くん、元気?」 「虎太郎くんって・・・」 あのオヤジを虎太郎くんって・・・・確かにかなり年下だけど軽い扱いだな。 違和感に戸惑っていると横合いから佐竹が口をはさむ。 「若はお元気ですよ。男盛りと言ったところでしょうか」 「そうよね。何年か前に着物の広告に出てたでしょ。相変わらずモデルみたいで・・・・ほんとイケメンだよね」 母親と何を話していいかわからない。オヤジの事どう思ってんだろう。 単なるコイツの上を通り過ぎた男の一人なんだろうか。 簡単にカッコいいとか話す母親が軽薄に思えて嫌な気分がする。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

393人が本棚に入れています
本棚に追加