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「これが私なの、ごめんね」
不意に愛美が座っている俺を抱きしめた。温かくて柔らかい胸。母の記憶が走馬灯のように俺の頭の中で流れていく。
馬鹿な女だって思ったり、子供の時の恨みもあるたくさんあるけれど・・・・・やっぱり恨み切れない。会ったら憎まれ口いっぱい言ってやろうと思っていたのに。
「桂斗・・・・ダメなママでごめんね」
またぎゅっと抱きしめられる。謝ってばかりだ。
女ってこんなにやわらかいんだ。母は仕事の時は化粧臭くて嫌いだった。
俺を置いていく時は必ず厚化粧で香水がプンプンしていた。だから化粧の匂いが嫌いなんだ。
自分の好き嫌いだったり、いろいろな性質のいろんな部分が愛美の影響だとわかる。こんなに離れていても血のつながった親子なんだと思い知らされる。
もう愛美の背丈を超えてしまった。あんなにデカくて、男好きで、俺を寒い夜に部屋から出す女だったのに。
いろんな男が出入りするたびにムカついたのは、家を追い出されるからじゃなくて、愛美を取られるのが嫌だったからなんだ。
子供の時にモヤモヤした思いがなんだったのか、会ってみて初めて分かる。
いろいろなわだかまりがすっと消えていくような気がした。
まだ完全には許せない。10歳になった時、急にオヤジの家に行けと言われた。
今、付き合っている男と結婚したいから俺が邪魔だというのが理由だ。
でもその時付き合っていたチンピラ風の男とは結婚はしていない。佐竹からもずっと一人だと聞いている。
あれは俺をオヤジにやるためにわざとついたウソだったんだろうか。
詳細を問いただそうとした時に、上から階段をどんどんと降りてくる音がする。まるで跳ねるように、それはリズムよく響いた。
「ママ~!これできたよ」
折り紙を自慢げに掲げてうれしそうな・・・小学1年生くらいの少年。
あまりの衝撃に、俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「子供・・・いるのか?弟・・・・なのか?」
「理玖(りく)っていうの。これからこの子のことも目をかけてもらえると嬉しいな」
「なに都合のいいこと言ってやがる。誰の子かわからないような奴、弟じゃねぇっ!」
すると小さな騎士(ナイト)がジャンプして飛びかかってきた。
「ママに怒るなぁ!このヤロー!」
「クソガキっ!なめんじゃねぇぞ、コラァ」
すると佐竹が間に入って制止する・・・・首を振って目を伏せた。
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