神様たちの朝

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そこに朝の領内見廻りをしてきた弁天宮の女官長・シュミが女官たちを引き連れて、静々と参上してきた。 現在この地域の鎮守神であるカノエや妻のサクヤが前日の大騒動で神力が極端に少なくなってしまい、地域の守りががら空きになってしまった。 そこでカノエの実家である弁天一族に、臨時で地域守護の代行をしてもらっている。 「太守さま。皆さま。おはようございます。 現在のところ、太守さま御領内に特に異変は認められておりません」 見るからにデキる女という雰囲気で、朝からキリッとしている。 「サンキューな。 頼りにしてっからな?」 「実にもったいないお言葉でございます」 さすがは弁天宮女官長。 実に見事な美しい礼をする。 そこに、サクヤの召し使いをしている烏天狗族の一匹がタタタタタ…とサクヤに走ってきた。 「奥方さま!大変ですっ!!!桜御紋の文箱ですっ!桜御紋の文箱が送られてきましたっ!!!」 「んなっ!?何じゃとっ!!!」 桜御紋の文箱。 漆塗りの文箱には金銀螺鈿で此花咲耶姫の正式な桜紋が精緻に施されている。 桜色の綾紐を解いて蓋を開けると、中には富士山と桜の刺繍を蓄える錦張りの巻物。 山神系最高位で桜神族当主である此花咲耶姫が、その配下に絶対命令を下す場合に用いる宣下の宝翰である。 そこに死ねと書かれていたら、死ななくてはならない掟。 「何か変事でも起こったのかぇ!?」 仰天しながら桜御紋の文箱を仰ぎ持ち、丁寧な手付きで恭しく綾紐をほどいた。 とにかく文面を見なくては…。 「………………」 サクヤが一通り目を通して、緊張の面持ちのカノエに視線を遣る。 「どうした…?どんな絶対命令が宣下されたんだ…?」 「それが…の?」 サクヤが眉をひそめて…。 「よぅ…判らぬのじゃ…」 ……………は?
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