神様たちの朝

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いよいよ姥桜の命婦が乗り込んで来た。 タンスから鏡台から布団に至るまで、完璧に引っ越し状態だった。 「まぁ…。そうですか…。若君さまはお出掛けですか…」 出迎えたサクヤに、命婦が残念そうに言った。 命婦を出迎える為に、サクヤだけは致し方無くお出掛け中止である。 サクヤに付き従う召し使いの烏天狗たちと共に…。 「ごきげんようございます、命婦さま。 また今日は、随分と急な上に大荷物でございますね」 命婦の宿敵・シュミが、不敵な表情を浮かべながら命婦に言った。 「これはシュミどの。 ごきげんよう。 サクヤ殿とのわざわざのお出迎えなど、恥ずかしげも無くご一家気取りですか?」 「私どもは、どちらか様のように押し掛けではございませんから。 太守さまと后妃さまに正式に依頼された、れっきとした鎮守代行でございます。 こちらにご滞在中は、その点はしっかりとご理解いただきますようお願いします」 シュミが涼しい顔でそう言うと、命婦はフン!と鼻で笑いながら蔑むような表情で言い返す。 「鎮守のお役目、大儀でございますね。そちらはお任せ致します。 ただ、奥向きの事はやはりサクヤどのが取り仕切るもの。 それは、さすがにわきまえてらっしゃいますね?」 ノノの養育は奥向きの役割に分類されるから、お前も出しゃ張るなよ…と言う意味である。 「相手の迷惑も考えず、押し入って来て礼儀の説法ですか? これは聞こえ高い桜神族が聞いて呆れますね。 厚顔無恥、ここに極めり」 「んなっ!私のみならず、誇り高い我が桜神族を愚弄したか!? 数多の男たちに媚びを売る一族が、武神たる私たちに敵うとでも思っているのか。 何なら…ここで勝負いたしましょうか?」 「典雅の芸神である弁天一族は、粗暴な争いより文化の守り手です!いかがわしい侮蔑の言葉!撤回してくださいっ!!!」 「貴女は領内の見廻りだけしていれば良いのです! 奥向きの事はサクヤどのに私がいろいろご相談いたしますので、そのおつもりで」 「お前こそ出しゃ張るな。 梅干しババァ」 「黙れや。オッパイだけ女」 ガキーン! どちらも密かに用意したらしく、鋼鉄製の琵琶のバチと鉄扇がぶつかり合う。 「なかなかやりますの…? 勇ましい弁天もいたものです」 「そちらこそ、なかなか。 年寄りの冷や水でございますか?」 ニヤリ…。 なんか…とっても怖い…。
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