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そんな命婦とシュミに挟まれて、サクヤが「ハァ…」と深い溜め息を吐いてから。
「どちらもお鎮まりあれ。
お姥さま。ようこそお出で下さいました。歓迎の膳をご用意いたしましたので、どうぞこちらに」
サクヤにそう言われ、命婦がにわかに機嫌を直して居住まいを正す。
「何ともかたじけないお計らい。急な訪れにも卒の無い持て成しの心得ですね。さすがはサクヤどの。それでこそ、栄え有る尊名を賜った我らの太子さまのご一柱でございます。
どっかの女神とは大違いですね」
「お姥さま。そのくらいになされたらいかがかの?
さて。シュミどの?」
「はい。后妃さま」
「実は、一つ頼みたい事が有るのじゃがの?」
「私どもでお役に立てるのであれば、どうぞ何なりと」
「我が領内の野山の生き物たちが、何やら怖がっている気配が伝わって参りましての?
心配ゆえ、どうしたのか調べてきてはもらえませぬかぇ?」
「それは…また敵の工作の可能性も有りますね…。
解りました。
早急に対応いたします」
「よろしく頼みましたぞぇ?
ささ。お姥さま。お待たせいたしました。ご案内いたします」
どうにか命婦とシュミを引き離す事に成功したサクヤだったが、彼女の気苦労はまだもう少し続きそうだ。
〔今頃…カノエたちは楽しんでおるのかのぅ…〕
つい、また深い溜め息を吐いてしまうサクヤだった。
「めっちゃ楽しいぜ!1200年振りの時空ドリフト!」
カノエが雲の舟のワープ機能で亜空間を暴走していた。
名付けて、異次元の走り屋(ペーパードライバー)。
「ひゃっほーい!」
カノエはノリノリ。
「危ない!危ないって!
もっとコーナリングは滑らかにさ!?
ぎゃぁぁ!
そこカーブ!カーブでアクセル駄目だからぁぁぁ───っ!!!」
一平は必死の形相で絶叫中。
そんな一平を軽く無視して、カノエがご機嫌に。
「俺は時を駆ける風になるぜっ!!!」
「ひゃはっ!ひゃははーっ!」
案外こういうのが好きだったノノに驚きだ。
ちなみに千秋は気絶していて、アラシに至っては無表情で遺書をしたため始めている。
運転席で大はしゃぎの主の隣で、助手席のトゲがポツリと…。
「これからしばらく…毎朝…毎夕…これなのか…」
彼の視線は、遥かに遠い。
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