神様のお医者さん

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閑話休題。 カノエたちが遠野御前の神社に到着すると、先客が居た。 庭に面した座敷の一室にて。 「やぁ。アラシ。 いきなり来てしまって、ゴメンね? いま遠野御前どのにご挨拶してきたところでさ。 御父上さまの代理で、少名彦那の叔父御上のご案内と露払いの役目を仰せつかってね。 そちらは、彼(カ)の桜色の男弁天さまだね。 お父上さまは大黒、その代理人のわたくしは恵比寿。 更に弁天をこの日この時にお迎え出来るなんて…。 …君は、とても運の強い子なのかも知れないね」 帝王神・大国主神の長男、七福神の恵比寿の事代主(コトシロヌシ)神。 あらゆる富と幸を司る予知の神。 大国主系神族に於いて、大国主、少名彦那に次ぐ第三位の超大物太神だったりする。 だいたい、予知が出来る神託の能力を持っている時点で凄い。 アラシが少し驚いた様子で長兄と貴賓に向かう。 「これは、これは。 スクナの叔父御上さま。 黄泉の国よりのわざわざのお運び、畏れ多く、ありがとう存じます。 ご尊顔を拝しまして、光栄の至りでございます」 「やぁ。アラシくん。 また美しくなったようだね。 でも、せっかく両性神なんだから、もう少し妖艶な中性の美だって捨てがたくない? 数多くの兄者の子たちの中には、もちろん君の上にも両性神が何柱か居るけど、みんな独特な美しさを持ってるよ? 君だけ何やらやけに女性的だね」 「ははは…。いや、ただ母に似てるだけでございます。 コトシロの大兄上さまも、お久し振りでございます。 お忙しい中、こちらまでお越しとはお珍しいですね。 お目にかかれて嬉しいです。 ……決まりましたか」 「あぁ。御父上さまの代理として、この私が少名彦那の叔父御上さまをこちらにお連れした…って事だからね。 つまり、お前に授けられる神位が裁決されたよ。 んん…。じゃぁ…。もう告知してしまうかい?」 共に居たカノエたちも少しあらたまり、脇に避けて会釈程度に頭を少し下げる。 少名彦那も脇に寄り、少し会釈をしながら瞑目する。 そんな一同を一瞥して確かめ、コトシロが異母弟にあらためて居住まいを正して告げる。 「神位拝命の典儀を執り行うにあたり、内々に告知するものである。 控えよ。高天原の新たな理(コトワリ)が、ここに明かされる」 アラシが行き届いた最高礼をし、折り目正しくそれを拝する。
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