780人が本棚に入れています
本棚に追加
閑話休題。
カノエたちが遠野御前の神社に到着すると、先客が居た。
庭に面した座敷の一室にて。
「やぁ。アラシ。
いきなり来てしまって、ゴメンね?
いま遠野御前どのにご挨拶してきたところでさ。
御父上さまの代理で、少名彦那の叔父御上のご案内と露払いの役目を仰せつかってね。
そちらは、彼(カ)の桜色の男弁天さまだね。
お父上さまは大黒、その代理人のわたくしは恵比寿。
更に弁天をこの日この時にお迎え出来るなんて…。
…君は、とても運の強い子なのかも知れないね」
帝王神・大国主神の長男、七福神の恵比寿の事代主(コトシロヌシ)神。
あらゆる富と幸を司る予知の神。
大国主系神族に於いて、大国主、少名彦那に次ぐ第三位の超大物太神だったりする。
だいたい、予知が出来る神託の能力を持っている時点で凄い。
アラシが少し驚いた様子で長兄と貴賓に向かう。
「これは、これは。
スクナの叔父御上さま。
黄泉の国よりのわざわざのお運び、畏れ多く、ありがとう存じます。
ご尊顔を拝しまして、光栄の至りでございます」
「やぁ。アラシくん。
また美しくなったようだね。
でも、せっかく両性神なんだから、もう少し妖艶な中性の美だって捨てがたくない?
数多くの兄者の子たちの中には、もちろん君の上にも両性神が何柱か居るけど、みんな独特な美しさを持ってるよ?
君だけ何やらやけに女性的だね」
「ははは…。いや、ただ母に似てるだけでございます。
コトシロの大兄上さまも、お久し振りでございます。
お忙しい中、こちらまでお越しとはお珍しいですね。
お目にかかれて嬉しいです。
……決まりましたか」
「あぁ。御父上さまの代理として、この私が少名彦那の叔父御上さまをこちらにお連れした…って事だからね。
つまり、お前に授けられる神位が裁決されたよ。
んん…。じゃぁ…。もう告知してしまうかい?」
共に居たカノエたちも少しあらたまり、脇に避けて会釈程度に頭を少し下げる。
少名彦那も脇に寄り、少し会釈をしながら瞑目する。
そんな一同を一瞥して確かめ、コトシロが異母弟にあらためて居住まいを正して告げる。
「神位拝命の典儀を執り行うにあたり、内々に告知するものである。
控えよ。高天原の新たな理(コトワリ)が、ここに明かされる」
アラシが行き届いた最高礼をし、折り目正しくそれを拝する。
最初のコメントを投稿しよう!