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スクナの意味深な言葉も非常に気になっているが、とにかく遠野御前に挨拶をしなくてはならない。
偶然なのだろうが、遠野御前の社の従者の多くが座敷わらしで、同系統の野のワラシであるノノは注目の的だった。
それはそれとして。
奥座敷には少しやつれつつも、毅然と背筋を伸ばし、威厳を放つ美しき女神が鎮まっていた。
スクナは廊下から面白そうに覗いている。
嵐丸は即座に母の脇に控えた。
カノエたちが遠野御前の前に居並び、粛々と頭を下げて礼をする。
立場上、保護者のカノエが代表して挨拶の言葉を述べる。
「急な来訪、どーもすんませーん。
スサノオのセガレで、弁天やってるカノエっていいまーす。
俺の後ろに居る奴らは、まぁ…俺の息子たちみたいなもんで。こっちから、千秋、ノノ、一平っす。
個性豊かで、いちいち紹介してたらキリ無いんで、適当に覚えといてください」
……………。
「お噂は前々からうかがったことがございました。
私はこの地の守り神。
遠野と申します。
昨夜、アラシ…あぁ…嵐丸から知らせを受けまして、もうこちらは大変な騒ぎになりまして…」
「やっぱ、俺が異端の君だからっすよね…?」
「まぁ。そんな…。
いいえ。確かにそれにも驚かされましたが、医神になってお仕えしたい方々がおいでになる…とか急に言われましたら、親といたしましては…やはり驚いてしまいまして…。
この子の父親にすぐに報せて、一晩の内に少名彦那さまに一位一等の宿り神に迎えていただくようにするのが精一杯でございました…」
…………いや。かなり…気合いの入った親心ではなかろうか?
「それより、嵐丸くんから聞いてるんスけど…、寝てなくて大丈夫なんスか?
俺たち、遠野さんのお見舞いに来たんで、横になってもらってて全然良いんスけど?」
そんなカノエの言葉遣いはやはり俗っぽいが、心から心配そうなその表情が合わさると、不思議と守ってもらっているような安心感を相手に与える。
さすがは芸能神。
これはモテる。
だから遠野が微かに微笑み、袂(タモト)で口を隠しながら少しリラックスした風情でクスリと更に笑みを濃くして返す。
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