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嵐丸が少し表情を厳しくして。
「悲劇です。
助けられる力が有りながら、いったい何の拷問なんですか。
大罪と解っていながら、それでもどうしても罪を犯さずにはいられなかった、その時の思い…。
私たちは、それを愚行と侮蔑していれば本当に良いんでしょうか?
納得できません。
研究の価値は有りませんか?
無かったはずの未来を本来の未来に融合、もしくは並立させられる仕組みを解明できれば…。
反魂が大罪でなくなれば、我ら神族にとどまらず、世界にとって莫大な利益になります。
自然の流れを守る私たち神族にとっては、確かに大きな反発が予想される研究ですけど…。
学友にいじめられる…?
そんな次元のお話は、後に回していただけませんか?」
「大きな反発程度で済めば良いけどね。
大法官どの辺りから本当に逮捕起訴されて永久投獄されても不思議じゃない危険な研究課題じゃない?
医術の心得が有れば、もっと楽に生きていけちゃうよ?」
「そして、後悔ばかりしながら生きていけと仰有いますか?」
「ほぅ。なかなか言うねぇ?君」
「失礼いたしました」
「医神としてなら君の研究課題には大いに興味が有るんだけど…、宿親神としては君は我が子同然なんだし…やっぱり心配なんだよね…。
こっそりやる分には裏でいろいろ教えてあげても良いけど、良いと言うまでは公表しないで?
本気で危険だからさ?」
「解りました。お約束します」
「うん。なら、その研究をウチの学院の中でやらせてあげるか…決めないとね。
まぁ、もう判ってるだろうけど、君には母親の遠野御前どのを診察してもらうね?
私の一等神になって医神の眼が使えるはずだから、神気とか細かく診れるようになってるよ?
あとは問診とかして、治療法を組み立ててみて?
まぁ、医学や薬学の知識が充分でないと難しいだろうけど、その辺は私に質問しちゃって?
査定に影響が出ない範囲で答えてあげるから」
「解りました」
「うん。
なら、さっそく始めちゃって?」
スクナは明るく言うが、嵐丸は緊張の面持ちで実母の正面に座る。
「母上…。では、診させていただきます」
一度目を閉じて、医神の眼を発動してから再び瞼を開ける。
嵐丸の試練が始まった。
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