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千秋に誉められて、嬉しそうに笑顔を輝かせる一平。
ノノはさっきからずっとお菓子を夢中で食べている。
そんな二人に笑顔の千秋が少し心配そうに言う。
「それにしても、ノノくんは昇華したら…とんでもない神様になっちゃうんだよね…」
口に物が入っている時は喋っちゃいけませんとカノエ太守に仕付けられているノノは、基本、食事中は無言だ。
これで一平が居なかったらちゃんと飲み込んでから話すのだが、一平が居てくれるとノノが言いたい事を彼が先に言ってくれるので、ノノは安心してそれを聞きながら美味しくのんびり食事を楽しめる。
たまに一平が突拍子も無い事を言ったりすると、喉に詰まらせたりしてしまうのだが…。まぁ、つまりは血ではなく同じ神気を宿した仲良し兄弟である。
だから今回も、一平が答える。
「あぁ。ねぇ…。
男弁天の桜神…だもんねぇ…」
義母のサクヤ姫の実家の桜神族も、義父のカノエ太守の実家の弁天一族も、どちらも女系の神々である。
女系の神々にとって、一族に生まれた男の神は特別な存在になる。
本能で守らずにはいられない。従わずにはいられなくなる。
それほど特殊で絶大な異能を、生まれながらに宿している。
つまり、時に一族の当主でさえ本能から沸き上がる愛情に抗えず、他の一族も同様に心から慕わずにはいられない。
だから、いざとなったら一族当主さえ従えてしまう、一族の結束の要たる特別な存在になってしまう。
その代わりに、滅多に誕生しない。
しかし一度(ヒトタビ)誕生すると、一族の結束が自然と強まり、自ずから一族が必ず繁栄する。
ノノの義父であるカノエ太守は、大和神族の支配者である女帝アマテラスが姉弟でありながら寵愛する大風の太神・スサノオが密かに弁財天との間にもうけた落胤。
つまり女帝アマテラスにとっては、愛弟が外で産ませた不倫の子。
女帝自身からすれば間違いなく実の甥であるはずなのに、その生誕に慣例の祝儀を贈らなかった。
それを受けて、大和神族の中では色々と思惑が錯綜し、やがて女帝アマテラスや副帝とも呼べる太王神オオクニの取り巻きたちがカノエを“異端の君”と呼び始めた。
まだ幼かったカノエに、アマテラスやオオクニに更に気に入られたい取り巻きの者の中で、正体は明かさず密かに続々と彼に刺客を送る者が現れだした。
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