神様たちの朝

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そんな状況の中、弁天一族は女帝アマテラスに睨まれながらも、やはり結局はカノエを守り育てずにはいられなかった。 カノエを亡きものにしようという刺客を連日放たれてもカノエを守り抜き、次第にカノエ自身も自然と自分の身を守る技を会得していった。 だから今でもカノエは弁天一族の現当主・実母ベンザイにも非常時に於いては勝る特別な存在として太守と呼ばれている。 そんな弁天一族は技芸を司る一族であり、神族のガソリンと言える神気よりはそれを活かし発する才能である才気を重視する。 自動車で言ったら、ガソリンをどんなにたくさん積めても走りの性能が悪ければ意味が無い。 それよりも、より華麗でスポーティーな走りが出来る性能が高い方が高級車とされる。 もちろん神を自動車に例えるのは不適切だが、弁天一族では神気よりはまだ才気を重視する傾向が強い。 元から滅多に現れない男弁天であるカノエ太守。 男弁天の神子も大抵は女神。 そんな中で、千年の野のワラシという特異な経緯で昇華し誕生しようとしている男弁天を父とする男弁天。 更にカノエの音曲の楽才を引き継ぎ、特に笛の才に秀でていた。 たとえ大和神族全体からすれば“異端の君”と忌み嫌われるカノエ太守の神子だとしても、弁天一族始まって以来の男弁天の才気を受け継いだ男の神子。 たとえ女帝アマテラスにカノエ太守がどんなに疎んじられようが、弁天一族からすればノノは長い一族史上、空前の男弁天を父として生まれた男弁天。 理屈など後から付いてくる、一族の更なる繁栄を約束する奇跡の神子たる大切な他に類を見ない至高の皇太子。 それだけならまだ良かったのだが、世の中、そう甘くはない。 才気は父の楽才を現したノノだったが、神気は母のサクヤ姫の色を宿していた。 つまり、男弁天であるのと同時に、若桜の君と呼ばれる男の桜神でもあった。 さぁ。大変だ。 これが逆ならまだ良かった。 才気は桜神族、神気は弁天一族…ならばそこまで問題は大きくならなかっただろうが…。 ノノは才気を重視する弁天一族の才気と、女武神とも呼ばれる美と力を司る桜神族が重視する桜の神気を宿していた。 桜神族にしても、やはり女系の神族で滅多に男の桜神は誕生しない。 だから、一族に誕生した男の桜神であるノノは“若桜の君”と呼ぶ特別な存在である。
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