神様たちの朝

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歴代、桜神族で子を産んだのは当主である富士山の守り神で全国の山神を統べる此花咲耶(コノハナサクヤ)姫のみ。 だからこそ、桜神族の中で唯一の尊貴な存在として族長当主とされて今も最高位に立っている。 此花咲耶姫は女帝アマテラスの正嫡の孫であるニニギに一目惚れされた美貌の姫神であり、やがて三柱の男の神子を産んだ。 その中の一柱が今も民間伝承で山幸彦と呼ばれるこの国の皇室の祖だ。 それもあり、アマテラスの直系を産んだ女神として、此花咲耶姫は山神系最高位の神位を誇る。 女神ながら武神たる強い彼女は、ニニギの力を宿す神子は三柱も産んだのだが、彼女自身の桜神となる神子にはなかなか恵まれなかった。 そこで彼女を実際に育てた乳母である姥桜の命婦が、化身とする桜の神木の枝から苗木を育ててみてはどうかと進言した。 花に実も種も宿さない桜の木。 アマテラスの正嫡であるニニギに愛されたから此花咲耶姫は子を産めたが、そうでなければ他の桜神と同様に絶世の美貌の代償に一代限り。 枝分かれした苗木には、彼女の妹神たる姫神が現れた。 両親の間に生まれるのが子である以上、父が存在しないそれは母子とはどうしても呼べない。 つまり、単性生殖。 その後もやはり誕生する桜神は、枝分かれした苗木の妹神ばかり。 そして、絶世の美貌の代償に子が産めないという宿命の桜神族。 別に生まれてくるのが女だからと不都合は無く、むしろ美貌も司る桜神族ならば、気高い高貴な美女の武神一族として誇りにした。 けれど、長い歴史の中で桜神族も二回だけ突然変異である男の桜神の誕生に恵まれた。 別に男尊女卑というのではなく、むしろ桜宮殿の中では女神の権威の方が強いのだが、通常は女しか生まれないはずの一族に生まれた男の神子が特別だというだけだ。 女しかいない我らの中で、初めて目にする自分と同じ流れを宿す男の赤ちゃん神子。 もう…どうしようもなく…可愛くて可愛くて可愛くて仕方がない…。 桜神族の中では“若桜の君”として若君と呼ばれる立場なのだが、こちらは同じ女系神族の弁天一族より悲運の歴史を持つ。 昇華して神位を賜る前に、どういうわけか、何故か不思議と若くして崩御(逝去)してしまうのだ。 ただ、確かに桜神族や弁天一族に限らず、女系の神族に生まれた男の神は一族を束ねる程の特殊で強大な力を宿す代償に、ある種の脆(モロ)さを帯びている。
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