神様たちの朝

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そこに、少し脚を引き摺るようにしてアラシがやって来た。 「あっ!アラシちゃん!」 一平が即座に反応する。 「もう歩いて大丈夫なの?」 オオクニ太神の神子であり、男の娘(オトコノコ)の神だ。 昇華したばかりで神位を賜る直前の若い神。 男の体に女の心。 そして、見た目は可憐な美少女。 更にオオクニの神子ともなれば、家柄も申し分無い。 当初はノノの婚約者にとカノエの両親であるスサノオとベンザイが見合いをさせるつもりで連れてきた。 しかし実は、アラシは事前に正体不明の何者かに言葉巧みに操られ、ノノの抹殺か昇華の阻止の密命を帯びた刺客だった。 けれどカノエとサクヤに生涯の忠誠を誓う忠臣で鬼族のトゲという者に看破され、野望は砕かれた。 トゲは武術の大名門、阿修羅士官学校の諜報学科の学生でもあり、普段は高天が原に留学している。 そのトゲがアラシを尋問する際に、世界で最も大切な主たちに再び刺客を放たれた事に激昂し、またアラシが自力では逃げられないように両足にナイフを突き立てた。 それを見ていたカノエとサクヤが思わずトゲを止めた。 元々はドジで泣き虫で弱虫で寂しがり屋なイジメられっ子だったトゲ。 そんな彼が誰かを傷付ける時、無表情の下の彼の心がどれほどシクシク傷んでいるか、カノエとサクヤには痛いほど判るから。 そんなカノエとサクヤの優しさに触れ、心から恥じ入って改心したアラシだったが…。 ちょっとその後も色々と大変だったりした。 そして結果的にアラシは、カノエたち一家の典医として召し抱えてもらえるように医術を学ぶ決心をした。 結局最後まで正体は掴めなかったが、何者かがアラシの母に毒を盛り、その薬をエサに母の看病をしていたアラシを操り利用した。 また、アラシ自身も巧妙に自爆の玉というとんでもない丸薬を飲まされて殺されそうになった。 オオクニ系は元から幽界の主宰であるのと同時に、医術も司る。 そんな経緯からのアラシの決断だった。 「おはようございます。一平さま。 神族の治癒力はなかなかでございますでしょ? 傷は明日には完治しそうです。 ただ…神気が…どうにも…」 「あぁ…。そっちの方が大変そうだよねぇ…。 ま。ゆっくり休めば良いよ。 お父さんやお母さんもしばらくは神気を元に戻すのに静養するしさ?」
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