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プーをダンスに誘ったのは、同じノーヴァに所属する『玲賀クノ』という男だった。配属は違うけど、コイツはボクも何度か面識があったはず。
直接会話したことはほとんどないから、どんな奴かはハッキリとわかっていない。
そんな酔狂なやつが現れたせいで、ボクはここのところ、心底楽しくなかった。
プーは、この時のダンスの時間がよほど楽しかったらしく、こうして時々当時のことを思い出しては、物思いにふけっている。ため息を吐くのはそのせいだ。
オマエは少女漫画の乙女か!
こちとら、思い出話に付き合わされるのは一方的に面倒なだけだし、かと言って話し掛けても、まともな返事は返って来やしない。
クソっ、玲賀め。余計なことをしやがって……。
このままだと、プーの不幸を喜んでいたボクが一人でバカやっているみたいじゃないか。
大体、コイツの何を見てダンスに誘ったのかがわからない。そりゃあ、本人に聞かないとわからないことだろうけど。
「ねえ」
「んー……?」
うぜえ。語尾を伸ばすな!
あぁもう、コイツがこうだからボクのイライラも、そろそろ限界に達しそうだ。ボクの気は元々そこまで長くない。
「もうパーティーのことはいいでしょ。楽しかったのはキモいくらいわかったから、この辺で気を引き締めてさ、」
「うん、そう。こーんなにおっきな大広間でね、いろんな人たちが仮面を付けて踊ってたんだー……。綺麗な人もたくさん居て、あの美人な人のドレスが素敵で……あ、でもその人は男性で」
「知るか! 誰がそんなこと聞いたよ!ボクが言いたいのは、もっとちゃんとしろってことだこのうすら馬鹿!」
「あぁ、ごめんね。大広間って言うのは立食のテーブルとバーカウンターと、音楽隊の人が待機しているメインの会場なんだ。扉から出ると庭に繋がってて、」
「誰が細かく説明しろっつったよ!!」
コイツ、この後に及んで大ボケまでかましてきた。完全に頭が花畑だ。
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