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※プチイベの小話
その日、いつもと変わらぬ夕食を終え中庭に足を運んだ二人は、相も変わらずたわいもない会話を弾ませていた。
「……でも、オマエそれ偽名なんでしょ。なんでそんな洒落た名前使ってんの?」
「『リドリー』は実在した人……魔法使いの名前から貰ったんだ。伝説の魔術書を使って魔王を倒したっていう、すごい魔法使い」
「……フーン。魔王を倒したとかウソ臭いな。どうせ大袈裟に書いてるだけだ」
「そんなこと……」
首の無い人形が何かを話し掛けたその時だった。
ドクン、と心臓を掴まれたような感覚が人形ーープレシェンシアの全身を襲った。そこから電光に近い衝撃が一瞬の内に駆け抜け、脳裏でガラスの様に弾ける。
【宣戦布告をする!】
痛みに近い音がプレシェンシアに直接注ぎ込まれる。
鋭く響いた声は少女のものだった。気高く、強い怒りと決意を孕んだ凛とした声。
それが誰のものか思考を巡らせる前に、覚えの無い風景や声が走馬灯の様に駆け巡った。
瞬きをする一瞬で、あらゆる光景が、音が、乱雑にフラッシュする。判断する前に、次から次へと、何の脈絡も無い順番で強引に場面を切り替えられる。
思考する余地はなかった。それでもプレシェンシアは、移り変わる光景の中に潜む印象的なイメージを感じ取った。
その目まぐるしさに、思わず口を噤んむ。
「どうしたの」
隣ではリドリーが大きな目をくりくりさせながら、プレシェンシアの様子を伺っていた。相棒が感じた凄まじい程の、走馬灯らしきそれを、リドリーは感じることが出来ない。
故に、突然会話を止めたプレシェンシアを不思議そうに見るしかなかった。
「ねえ」
返答もせず黙り込んだ相手に、リドリーはもう一度声を掛ける。返ってきたのは、打って変わって静かな声だった。
「血が」
そう切り出したプレシェンシアに、リドリーは不気味さを覚えた。いつも見慣れた首の無い人形姿が、酷くおぞましく見える。
それを気にする様子はなく、首を失ったデュラハンはうわ言の様に呟いた。
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