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「血が流れる。沢山……沢山の人が、戦う。近くで、ボク達の居る凄く近く……『此処』で」 リドリーは思わず身構えた。 絵空事をぼやいている訳ではなく、これは、死や不幸を読む『デュラハン』として、この先起こるであろう悲劇を予知したものだと悟った。 言う程この二人の付き合いは長いものではないが、プレシェンシアが人の不幸を予知する様子を何度か伺ったことがあるリドリーは、その口から語られる言葉が、この先を指す『事実』だということを知っていた。 断片的なものではあるが、一つ一つに真実が含まれている。 勿論、言葉のすべてが寸分の狂いもなく、パズルのピースの様にぴったり当てはまるというものではないが、強いて言えばニュアンスの違い程度の誤差だった。 「もう一つ」 身体を強ばらせたリドリーに、再び沈んだ言葉が広がる。 「ここから離れた所……自然が沢山ある所。この二つの場所で何か、大きな争いがある。自然に囲まれた……この場所、」 ふと、プレシェンシアの声が止まった。何かに悩んでいる様子で、次の言葉を出せずに居る。 暫く沈黙した後、最後の一言が溢れた。 「『緑の六芒星』」 それ以上、何かが語られることはなかった。バラバラに投げ掛けられた言葉を胸に、リドリーは唸る。 「どういうこと?」 これがプレシェンシアの『読み』の欠点だった。 本人はあくまで、フラッシュの様に脳裏を駆け巡った『イメージ』と『音』から事情を読み取り、無理矢理言葉にしているに過ぎない。 客観的にランダムな光景を見せられ、それを正しく時系列ごとに並べることは、今のプレシェンシアには不可能だ。 また、誤った認識を広めない為にも、本人すら曖昧なイメージは無理に話さないようにしている。 従ってこの『予知』は、確信のある単語単語を、自分達で判断して並べる必要があった。 「『此処』って言うのはノーヴァのことか。 何か戦いに巻き込まれるって感じか……。それより『緑の六芒星』ってのは何? 何かのシンボル?」 「わからない。でもハッキリ見えたのはこれくらい……。悪い予感がする……」 沈んだ声を漏らすプレシェンシアは、居心地の悪い感覚を胸の内に覚えた。 そして、この先自分達に降り掛かる戦火の予感に不安を募らせていた。 戦いが始まったのは、その数日後のことだった。 .
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