3人が本棚に入れています
本棚に追加
主任もそのあたりの事情は理解していたがために、このタイミングで出会ってしまった不運を心で嘆いていた。
「天下の三菱重工を成り上がりの沢城が押しのけた、なんて上の連中が怒っていた。しかも、その理由は何も伝えられず、ただ宇宙開発事業団からの変更通知だけが届いてきたんだからたまったもんじゃない。
知ってるか? 今回、運ばれてくるはずだったのは、月面で初めて稼働する電波天文台のアンテナアレイだぞ。もう整地作業も、電源の原子炉のセットも終わって、最後の設置作業だけだったんだ。これじゃあ、今年中に予定されてた部分稼働が来年の年度末まで遅れてしまう」
「重ね重ねすみません」
言外に高宮が理由の説明を求めていることは分かっていた。それは日本人同士にしか分からない、微妙な空気の動きだった。
主任は平謝りするしかなかった。一言いいたくなる気持ちは理解出来たが、彼から何かをいうことは許されていない。彼も事態のすべてを把握しているわけではなかったし、なにより社命と国からの依頼に縛られた身だった。
それを察したのか、高宮はそれ以上追及することはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!