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「九重、時間はあるか?」
「ええ、あと30分ほど」
「よし、少し付き合え」
――戦法を変えただけか。
主任は心の中で苦笑した。彼は、高宮が日本の古い伝統にのっとった横の繋がりと、根回しの人であることを思い出した。それはアルコールであったし、仕事の合間のタバコでもあったし、偶然の出会いを逃さない細やかな挨拶でもある。今回はアルコールを使うようであった。
「すみません、これでも仕事中の身ですから」
「ふん、あと48時間は船の中だろ。それも、特別豪華な前代未聞のチャーター便。1杯くらい飲んだところで、誰も気にはしないだろ」
「ははは、よくご存じで」
今度は表情に出てしまった。彼は高宮の人脈を狭く見積もってしまったようだ。どこからか分からないが、どうも月までの主任の行動は全て読まれているようだった。
「馬鹿野郎、気付かないやつがあるか。そんなもんは、ちょいと熱燗の1本でも持って、店のカウンターで聞けるもんだ。さあ、行くぞ」
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