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しかし、世界を席巻する分極化の流れは、2050年を待たずにおさまるだろうと言われていた。地球と言うゆりかごに住む人間は100億を越えて、さらに増加している。また、20世紀後半から現出したオゾンホール、地球温暖化などの環境問題は、地球の生物圏のキャパシティを人が越えようとしている証拠だ。すでに限界を越えようとしている人類の世界は、すべての人間を平等に養える余裕を失っていた。だからこそ、分極化は進まず、ただ衝突を繰り返して資源を奪い合う世界が21世紀の後半に控えていると言われていた。
しかし、パンドラの箱の中に希望が残ったように、つねに希望は残っていた。社会学的なブレークスルーは一向に訪れていなかったが、科学技術は常に前進と改良を継続していたのだ。それは、宇宙への道を人に与えようとしていた。
2008年、日本は沖ノ鳥島沖に世界初の浮体構造物で構築された質量投射機を完成させると共に、エアブリージングエンジンを搭載した完全再使用型紀藤往還機を就航させた。2018年には日欧共同有人月探査計画に基づいて、6人の人間を月の表面に送り込み、アメリカとソ連に次ぐ3番目の快挙を成し遂げた。契機となったのはこの月旅行だった。
月への道を既得権益であると思っていた、アメリカとソ連の後継者ロシアは日欧の成功に触発されて、半世紀ぶりの月への回帰を目指した開発計画を相次いで発表したのだ。さらに中国やインド、ブラジルなどの新興宇宙開発国も独自の月探査計画の策定を目指し始めた。
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