2038:a Moon Odyssey

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 2020年代、世界各国は月への道を歩き出したのには、やはり技術的なブレークスルーが背景にあった。日欧の成功はある種の政治的な契機であって、号砲とはなっても技術的に見るべきポイントがあったわけではない。  世界各国が月を目指した理由は、安定した核融合技術の開発にあった。日本とフランスが主導するトマカク型核融合炉、アメリカやロシアの進めるレーザー核融合炉は、2025年ごろの技術実証炉の稼働開始が確実視されていた。核融合に必要となる重水素は海水から抽出することができた。トリチウムの安定的な生産がネックだったが、それも新たな素材を用いたリチウムブランケットの開発によって目途が立っていた。D-T反応と呼ばれる核融合反応を使ったリアクターは、2050年の実用炉完成が見込まれている。  ところで、核融合反応と一口に言っても、いくつかの種類がある。現在、開発中のD-T反応はトリチウムと重水素を使った反応である。また恒星の内部ではD-D反応と呼ばれる重水素同士で生じる反応が行われている。このようにいくつか種類がある核融合反応の中でも、もっともエネルギー効率が高く、さらに危険な高速中性子の発生が伴わない反応が重水素とヘリウム3を用いるD-3He反応だ。
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