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その反応条件は開発中のD-T反応と比較して困難ではあったが、22世紀までには開発可能であると言われていた。しかし、1つ問題があった。地球上にはヘリウム3がほとんど存在せず、わずかに核分裂炉の内部や高速加速器で生産されるのみだったのだ。そこで、月への道が各国の注目を集めた。太陽光圧に運ばれてきたヘリウム3が大量に月の表面に存在していることは、1968年のアポロ10号、1969年のソユーズ10号による調査によって判明していた。(余談だが、月への着陸はアポロ10号が最初に成功したが、月の裏側を最初に見たのは1967年ソユーズ8号だった)
22世紀の世界情勢を左右する資源がヘリウム3であることは明白だった。だからこそ、宇宙への進出手段を持った国々は、月への道を競い合うのだった。月面の開発が本格化するのは、2022年の月条約締結以後のことだ。「月条約」は「南極条約」に範をとったもので、月及び月軌道の領土化や占有を禁止し、政治的対立を月へと持ち込まれないよう各国が努力する事が明記された。軍事力の持ち込みはもちろん厳重に禁じられている。
「月条約」が「南極条約」と異なるのは、企業単位の開発が広く認められていることだ。国連に新設された国際連合月開発局の下に参集した各国が、開発担当地域を調整し、そこでの交渉で獲得した地域について独自の開発を行う事が認められていた。このころ月面表面を開発可能な国々は、アメリカ、ロシア、ESA、日本、そして中国の5つだった。彼らに最初に認められた開発地は、各国の有人探査機が最初に着陸したポイントから半径100キロメートルの地域だった。つまり、アメリカが静かの海の北東にあるコペルニクスクレーター、ロシアがその南にあるウラル山脈一帯を認められ、ヨーロッパがケプラークレーター、中国がハンステーンクレーターの開発権利を得ていた、そして、日本はティコクレーターの権利を認められた。各国は後続する国々の権利を妨げないために、21世紀中の開発事業について、認められた範囲を超えることは禁じられた。
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