3人が本棚に入れています
本棚に追加
そうして、2020年代の月レースは本格的に始まったのだ。
日本は2012年から建設を進めていた軌道ステーション《天橋立》を2023年に完成させ、宇宙への橋頭保を低軌道に得た。《天橋立》は人の行き来を行う中継点として利用されると共に、無重力空間を利用した軌道工場としての機能も与えられ、沖ノ鳥島沖の質量投射機から打ち上げられた素材を使った工業製品の生産も行った。高い支援能力を持った《天橋立》を利用した日本の月面開発は、順調に進捗した。
2025年には月で最初の位置測位システムを五ヶ国共同で構築、運用を開始し、2028年にはティコクレーターで日本最初の恒久基地である《かぐや》基地が稼働を開始する。その後の開発は、2030年策定の第6次宇宙開発5か年基本計画に基づいて進められて行き、一部に後れを見せながらも《かぐや》基地の機能強化、《天橋立》の増築といった工事が進められていった。
一方、国際共同事業として月の裏側への電波天文台の建設や、ラグランジュ点に拘束された微小惑星の開発計画にも参加している。
2038年現在、第7次宇宙開発5か年計画の下、2040年に1000人規模の地下開発基地を稼働させるための地下工事が進んでいる。その工事の最中に、見つかってはならないものが見つかり、九重主任ははるばる月へと出張しなければならなくなったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!