2038:a Moon Odyssey

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2  ――This is KAGUYA base control. You go to Japanese development area. Please your IFF code. ――KAGUYA base control, this is Fusoh Star-line Service 1023. BENITURU. ――To FSS1023, from KAGUYA base control. I’m checking your IFF code. Please stay. ――OK.  〈べにつる〉のキャビンに座った九重主任の視界は、月の地表と宇宙を合成したものだった。地球と月、そして宇宙しか彼の周りには存在しなかった。ティコクレーターとの直接交信可能圏内に入った〈べにつる〉は、今、月の表側を巡っている。 「――地球は青くない」    つぶやきは虚空に消えた。その昔、宇宙に初めて飛び立った宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンは、地球が青かったと言った。地球はその表面の7割を覆う海を彼の眼に見せた。しかし、主任の視界に映る地球は、また違う姿を見せていた。月の軌道から見える地球は、その身に浴びた太陽光を反射して光り輝いていた。その光――地球光は月の表面にまで到達し、足元を軌道進行方向から近付いてくるクレーターを照らした。  南緯43.3度、西経11.2度。高さ5キロ近い稜線の縁が、長くクレーターのないBに広がる平原に影を落としている。その影は40キロほど伸びて、クレーターの中心にそびえる中央丘によって途切れた。視界が光に曇った。ViReGが即座に光量を調整するフィルターを作動させる。クレーターの平原が地球光を反射した光だった。  高いアルベド(反射率)を持つクレーターから伸びる光条は、軌道高度400キロにいる〈べにつる〉にまで到達していた。真下に来たクレーターの中心がきらめいた。さきほどの光条とは違う。もっと地表に近く、低い場所できらめいていた。ティコクレーターの平原に築かれた日本の月面開発拠点、かぐや基地が反射する光だった。
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