2038:a Moon Odyssey

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 かぐや基地は日本の最も重要な基地だった。2038年現在、日本の宇宙開発拠点は地表、地球の衛星軌道、月のそれぞれに広がっている。その中でもっとも多くの費用を費やし、もっとも最前線にあり、そしてもっとも未来を進んでいるのがこのかぐや基地だ。  かぐや基地の重要性は、その位置が示している。クレーターの稜線の麓の永久影に築かれた基地の周りには、測量基準点や三角点がおかれている。それらは月面開発のもっとも初期に設置されたものだ。かぐや基地以後に建設されたティコクレーターのすべての建造物は、この基準点から座標を得ている。つまり、かぐや基地は最初の橋頭保であり、将来の開発の基準となる場所にあった。  日本のティコクレーターの開発は、2026年に本格的に始まった。前年の月位置測位システム(MGPS)の設置がその契機となった。初期のかぐや基地は、《天橋立》以前の軌道ステーション《ひかり》のモジュールを利用した、簡単なものだった。基礎工事もなく、ただ月のレゴリスの地表にモジュールを置いただけの基地だった。  2026年、最初の測量基準点と三角点が月の地表に打ち込まれた。データはMGPSによって得られた座標、高さをもとにしていた。それから2年間はクレーターの稜線の頂上を縦断しながらの基準点の設置作業と、将来的な電力需要を満たすための太陽光発電施設の建設にあてられた。
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