2038:a Moon Odyssey

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 主任は初めて本格的に経験した九重は、その感覚に酔いしれた。ペンが運動法則のまま動き、固定しない体を少し押すと壁に向けて滑らかに飛んでいく。もっとも、それは最初の30分のことで、強く押し過ぎた体をしたたかに壁に衝突してからは、あまり派手な動きはしなくなった。慣性質量の存在を頭ではなく、体で体感したのだった。  ゆっくりと高度が下がって行く。次の周回が終わるころには、着陸シークエンスに入るだろう。速さと高度が連動して動いている。位置エネルギーと運動エネルギーは等価である。そんな事実も理屈ではなく、現実の運動で理解出来た。  月の地平線にクレーターが消えていく。もう少ししたら、地球の入りを見ることができるだろう。主任はViReGの視界を通常視界に切り替えた。キャビンに人影はない。その代わりに、所せましと観測機材が積まれていた。    ――この機材で分かる代物だと言いのだが。  地球が地平線に沈んでいく。そして、月の裏側が見えてきた。
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