Ⅰ 乙黒探偵事務所

2/8
前へ
/40ページ
次へ
   0 ズザッ――    ズザ―― 床と足裏が擦れ合うような音が壁越しに聞こえてくる。   誰かがゆっくりと歩いているようなその足音が、 また今日も彼女の部屋に響いてきた。 「い、いや……お願い来ないで……」 一人暮らしの凍てつく空気が漂うこの部屋へ向かってくる、 ただただ繰り返される何者かの足音。 彼女は蹲るように ベッドに身を伏せていることしかできなかった。 ズザッ――    ズザ―― ゆっくり、ゆっくりとその音は徐々に大きくなってきている。 確実に彼女の部屋へと近づいてきている。 ズザッ――    ズザ――       ズザッ―― その音は彼女の部屋の前で足を止めた。 「い、いや……っ!」 彼女は怯え、その先にいる足音の姿を ドア越しにただ見つめていることしかできなかった。 「お、お願い……許して……お姉ちゃん」 ガチャッ―― 怯えている彼女を見透かしているかのように、 ドアノブはゆっくりと捻られた。 そして、静かにドアが開かれる。 彼女を暗い世界へと誘い込もうとしているかのように。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加