Ⅰ 乙黒探偵事務所

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   1 「ぐおー。がごー。ぐおー。がごー」 怪物のような寝息は その小さな建物の外までも響き渡ってきた。 「全く。堕落探偵のイビキ、 外までまる聞こえだよ。勘弁して欲しいね」 霧島響哉(キリシマ キョウヤ)は夕景のなか、 オレンジ色に染まる建物を見上げながら呟いた。 冬の凍えた空気へと、 霧島は白い溜息を吐き出した。 端整な顔立ちだが、 どこか嫌味たらしい目付きをしており、 そんな眼差しを眼鏡で隠している。 そんな青年だった。 建物の2階へ通じる階段の入り口には 小さな看板が立て掛けられており、 「乙黒探偵事務所」と書かれてある。 「そんじゃま。あの寝道楽化け物を起こしますか」 ぽつりと溢すように呟き、 霧島は狭い階段を上って行った。 掃除など行き渡っていないであろう ゴミが散乱する階段を慎重に上っていく。 その先にあるガタがきている扉、 そこに再び「乙黒探偵事務所」の看板があった。 床とドアが擦れるキーッという音を鳴らしながら。 霧島はその鍵の掛かっていない扉をゆっくりと開けた。
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