Ⅳ 抱擁

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そして、乙黒は杏子に向かって告げた。 「高崎杏子、 よく見ろよ。 この部屋を。 ここはアンタの部屋 『アパート202号室』 ではない」 乙黒は一句一句を強調するように告げた。 「え……」 動揺する杏子は気を張り詰め、 自らが今、存在するこの部屋を見渡してみた。 姉・柚子と共有した沢山のモノが散乱している、 6年前と何ら変わらないこの部屋。 そう、 ここは確かに 『杏子の実家である高崎家』の 『杏子と柚子の部屋』であった。 「ど、どうして……!? 私、アパート202号室で寝ていたはず……!?」 「ああ、そうだ。 アンタが『寝た』のは確かにアパートだ。 だがアンタは寝たあとに、 無意識下のうちに自らの足で この『柚子さんとの部屋』まで 帰ってきていたんだよ」 「え……っ?」
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