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「ど、どうして私、そんなことを……」
動揺する杏子を見て、乙黒は告げた。
「おそらくアンタじゃなくて
『高崎柚子の意識』だろうな」
「え……? 柚子お姉ちゃん……?」
驚きを隠しきれない顔で杏子は乙黒を見つめた。
「この世から柚子さんを亡くしたくないアンタが、
自らの中に『双子の姉である高崎柚子の意識』を
無意識下に作り出していた……」
「……お姉ちゃんの意識……?」
「『柚子さんの意識』は
アパート202号室を
自分の部屋だなんて思っていない。
だからアンタの意識が無くなる睡眠時に、
目覚めた『柚子さんの意識』が
この実家へと帰省するようにできていた」
冷え切った空気が暗い部屋を覆っている。
遠い昔に輝いていた双子姉妹のこの部屋は、
今や残された妹の寂しさを紛らわす砦として存在していた。
「お姉ちゃんじゃなかったんだ……」
「……あ?」
「足音の正体、お姉ちゃんじゃなかったんだ」
「ああ。そうだ」
杏子の瞳から一滴の涙が零れた。
静かに涙を流し、杏子は蹲った。
霧島は心配そうに駆け寄る圭子を見て、
残された親子を見守ることしかできないでいた。
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