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そのとき、高崎家の玄関のドアがゆっくりと開き、
杏子がやって来た。
「……高崎さん」
霧島が声を掛ける。
しかし、その声は杏子には届いてはいないようであった。
放心したように、やつれた表情を乙黒たちに向け、
杏子は言った。
「返してよ……、
……お姉ちゃんを返してよ!」
その言葉は、悲しみと怒りが滲み出ているようだった。
杏子はその言葉を乙黒たちに向けて言い放ったが、
本当は自分自身に向かって言っているのではないか、
と霧島はひとり寂しげに感じた。
そんな杏子を見つめた後、乙黒は静かに何かを呟いた。
そのあと何かに身を任せるように静かに目を閉じた。
そしてゆっくりと杏子へ向かって歩き出した。
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