Ⅰ 乙黒探偵事務所

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そこには、雑誌や資料などで汚く散らかった事務所が広がっていた。 ビールやチューハイの空き缶が転がっている。 その部屋は冬だというのにヒーターすら点いておらず、 肌を刺すように、空気が凍り付いていた。 「う~、さっぶい」 霧島は凍えるように腕を抱いた。 そして、 「おーとーぐーろーさーん」 と此処の主の名を呼んだ。   不思議とこの場所に上ってくるまでに 怪物のイビキは治まっていた。 「起きてくださーい、乙黒さーん」 霧島は溜息を吐き、 事務所内脇に設置されているヒーターのスイッチを入れる。 そのまま散らかった雑誌類を足で退かしながら、 奥のデスクまで歩いていった。 汚いデスクの下から再び、 「ぐおー。がごー」 という怪物の鳴声が事務所内を震わす。 「はあ……。起きて下さい、乙黒さん」 「ぐおー。がごー」 「起きて下さい。名探偵・乙黒リツカさん」 「ぐおー。……むにゃむにゃ。がごー」 「起きて。自称24歳のぴちぴちモチモチ肌のナイスバディ霊媒探偵・乙黒リツカさん」 「があああー。ごおおおおー」 霧島は苛立ちを込めたキツイ視線を 怪物の寝息へと向けた。
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