第1章

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誰かが言った。 世界はもう終わってしまっているのだと。 誰がどれだけ願っても 努力をしても叶わない願いなど この世界には掃いて捨てるほど存在する。 どれだけ願っても世界から戦争は無くならないし どれだけ努力しても社会から犯罪はなくならない。 どれだけ平等を唱っても この世から格差はなくならないし いじめもなくならない。 信じるものは救われないし 真面目なものは報われない。 世の中には理不尽が溢れているし 社会は不条理で満ちている。 どれだけ夢を見ても夢は夢でしかないし どれだけ願っても奇蹟なんて起こらない。 ただ繰り返すような日常にほんの少し抗ってみても いつかは常識という枠にはめられてしまう。 だが、それの何が悪い。 どうせ叶わぬ願いなら初めから願わない方がマシだ。 どうせどうにもならないのなら努力するだけ無駄だ。 毎日が平凡だというのなら それは特に何の問題も起きていないということだ。 毎日を死の恐怖と戦いながら 過ごしていないということだ。 漠然とだがしっかりと 変わらぬ明日が来ると確信しているということだ。 それはつまり平和そのものではないか。 戦時中の人間誰もが夢見た平和だ。 紛争地域で暮らす人間にとっては 喉から手が出るほど 欲しいと思っているに違いない平和だ。 世界が目指しているのであろう平和だ。 少なくとも俺たちの周りにはそれが溢れている。 どれだけ溢れているかというと 店先で安売りされている 冴えないTシャツくらい溢れている。 だからこそ俺たちは時折忘れてしまうのだろう ただの平穏や安全が金で買えるほどに 価値のあるものだということを・・・。
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