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彼が、靴を履き替えている。今だ。今が逃げるチャンス。
私はまた思いっきり突っ走った。
彼がそれに気付いて追いかけてくる。
細長い体とは対照的に、とても速くて、すぐに差は縮まり、校門を出て少ししたところでまた手首を捕まれた。
「ひっ……!」
今度は、もっと強く引き寄せられて、こけるように彼にぶつかる。
ぎゅうっと手首を捕まれたまま抱き締められる。
「……逃がさないよ」
さっきまでの優しい感情はこもってなく、やたら突き刺さるような声色にびくりと体を震わす。
手首を掴んでいた彼の手に、力が入る。
「いっ……痛っ…」
じんわりと涙がにじみ、視界がぼやけた。
彼は、妖艶な笑みを浮かべ私を見る。
「…なにその顔。堪らなく可愛いね。壊したくなる」
これが、本当に学校内で知らない人はいない位有名な王子なの?
「………やっと捕まえた」
そして、彼は私の頬にチュッとキスを落とした。
これが、悪夢の始まりだった。
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