イータからの手紙

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『親愛なるカウスへ 久方ぶりに筆を取った。少し前までは嫌 になるほど握っていたのに、もう今は懐か しく感じてしまう。 ところで、君の方はどうだ? 病気なんぞになっていやしないか? ちゃんと飯は三度食べているか? 祈りは覚えたか? 君がこれを読むころは、私は多分違う街にいるのだろう。そして、君からの素っ気ない返事を何度も読んで、目を細め、また長い手紙を君に書くのだ。 恥ずかしながら、年老いて、こうしてハマルの真似事をして旅に出てみたが、この手紙のやりとりが唯一の楽しみだ。 面倒かもしれないが、老いぼれへの手向けと思って、そうだな、あと数年ほど付き合ってほしい。 さて、私の事はここまでだ。 実は、今回訪れた砂漠の街で、大変に面白いものを見つけた。ぽつんと建った本屋の棚に、これまたぽつんと古ぼけた一冊の本があったのだ。 ぱらぱらと項を捲ってみると、どうやらそれは誰かの手記のようだった。 それに、なんだかいやに見覚えのある字であったから、思わず買ってしまった 。 今度の手紙に同封したのは、この手記だ。 ゆっくりと読むといい。 彼は、たくさんの出会いをしたようだ。 たくさんの短い物語が詰まっている。 そして、それらはまるで、愛する君に、カウスに語っているように思えるのだ。 イータ』 * * * カウスは読み終えた手紙を元通りにたたみ、ふうっ、と一つ息をついた。 半分だけ開けた窓から入る風に、金糸のような長い髪が揺れる。 朝日に照らされた真っ白な頬は、遥かの恋に焦がれてほんのり赤く染まった。 海に星を散りばめたような彼女の瞳は、同封されてきた小包を映していた。開けてみると、思っていた以上にぼろぼろな本であった。 しかし、それは見まごうはずもない、愛しき彼のお気に入りの手帳であった。 ふと、彼のーーハマルの優しい笑顔が目に浮かんだ。 彼女は、撫でるように優しく捲り、それを読み始めた。
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