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ほっそりした夕日が、教室に微睡み、寄りかかって甘えていた。乱雑に並べられた机や椅子が、行く手を阻んでいた。近付きたくて詮ないのに、それでも、真っ直ぐ進めさせてはくれなかった。一緒に勉学に励み、机を並べた間柄の友に、くどくど引いた椅子は机に寄せるとか、床の切れ目に机を合わせるとか、そんな説教を繰り返したくなった。
とにかく、なにかを言おう。言わずして、崩れている机の列を丁寧に避けて進むのなら、恐らくもう一度にも、淡い朱を幾重に屈折させて、艶やかなさざ波は浜に吸い込まれはしないのだろう。
やや強引にではあったが、腰に鈍痛を増やして、椅子と机を縫うように前進する。耳障りな音をさせてまでも、前進した。
いっ!
痛みが襲っていた。右足の甲に重たいものが当たったのが分かった。咄嗟に叫んで、蹲って右足を見れば床に原因が転がっていた。拾い、投げ捨てる寸前、ふと、だが、頭上を見上げる。
「…………」
無様に上げていた左手を見据える、月を頬張った瞳。二秒かして、黒目に当たるだろう月面色が下に動いた。
あ。どうも……、初めまして。
「…………」
初めましてじゃないだろう。いや、確かに初めましてではあるし、近付いた頃にはそんな台詞しか頭の中に用意はしてはいなかった。でも、なにが初めましてだ。そうじゃないだろう、もっと諧謔的な一言だってあっただろうに、なにを今更聞き飽きた台詞を言う。
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