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輪郭がシャボン玉の光沢をした手を、蛇口から零れる水を掬う形にして、掌を鼻先に向けていた。米粒の黒い球体が一つだけ、申し訳なさそうに乗っていた。もう片方の手で、丸い粒を指差し、顔を指差した。何回か反復され、多分、食べろ、と言いたいのだろう。恐る恐るではあったが、透明な手に指先で触れた。
冷たい……。
教室の壁の如く、逆上せた頭を冷やしてくれる冷たさが、色のない手にはあった。一応、狼狽は顔に出さない為に細心の注意は払った。黒い丸い物体を指先でつまみ上げる。
食べれば、良い?
手で相手のした動きを真似れば、強く首肯したので、心を決める。
ええい! 後先に我関せず! 毒入りの飯は皿まで食ってやる!
「――!?」
口に放り、歯で謎の物体を潰し、胃に下したが、なにか、えっと、間違えた、のか。うん。間違えたのだろう。
「――! ――!? ――!」
狼狽えているのは、分かる。その気持ちをいたく分かってやれた。足を振り上げ、床を何度も踏み、加えて両腕を回していれば、意に反したのは……分かった。それにしても、口の中に広がる感覚が奇妙だ。食感は外が硬く、中は柔い。熱さと冷たさを兼ね備え、味となれば宇宙だった。
……なんと言うか……凄く不味い。
「――――――、――!」
透明な指先が、鼻を押す勢いで突き出された。憤慨しているご様子だ。咀嚼すべき物体ではなかったのは、食べたので良く分かる。胃で未だ熱さと冷たさが存在を叫んでいるから、分かる。
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