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ま、まあまあ。言葉が伝わらないのだし、詮ない詮ない。
苦笑いして、宥めたが、伝わりはしていない。相手、月面色の瞳をして、夕日を幾重に屈折させながら波打つ髪を持ち、透明で、輪郭だけがシャボン玉の光沢をしていたから分かる四肢や、顔や、首や、色々。
そんな小さくも激怒する少女に、どう言えば、どうすれば、怒りを鎮めてくれるのか、誠に謎だ。
ふわふわの薄氷に酷似したワンピースを着る少女は、疲れたのだろう、地団駄を止めて、桜色が薄く張った唇を尖らせ、睥睨しつつも沈黙した。
ごめんなさい。
頭を軽く下げたが、小振りの鼻をなんとか把握出来る顔は、横にふいっと反れた。謝る勢威は伝わったので先ず先ずだろう。どうしたら良いのか、どうすれば良いのか。ああ、どうすれば……。
んー……。
「…………――」
呆れた素振りで踵を返した。脊髄反射で手を取った。氷輪の手が、凍てついて指先を感電さえさせた。
振り向く少女の月面色の瞳に、ただ見惚れた。
……あ、いや。
月面色の瞳は美しくて、つい吸い込まれそうになっていた。頭を何度か振り、雑念を払う。
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