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客人や山内、そして使用人に至るまで部屋は二階にあった。
階段を上がって正面に扉が六枚。階段の左側の大きな部屋が山内の寝室。右側が使用人二人の部屋がある。野崎の部屋も右側にある。
「柏木様の部屋は左から三番目でございます」
野崎に案内され、三番目の部屋に入ろうとすると、左一番奥の部屋の扉が開いた。
出てきたのは、やけに短いスカートを穿いた黒のスーツ姿の女性だった。
「あら、こんにちは」
女性は柏木を見ると微笑んだ。
「こんにちは。柏木と申します」
柏木も笑顔で返す。
「高橋清美です。でも、意外ねえ」
高橋は柏木に近づきながら、首を傾げる。
「意外?」
柏木が不思議がっていると、突然野崎が
「私は晩餐の仕込みがありますので」
そう言って、鞄を柏木に渡して階段を急いで降りて行った。
「どうしたんでしょう?」
柏木が困っていると、高橋はくすくすと笑った。
「愛人達の会話なんて、聴きたくないんじゃないの」
「あ、愛人?」
柏木は思わず訊き返した。
「知らないの?山内先生の寝室前の三つの部屋は、愛人用なの。因みに新人さんはここ。貴方の部屋よ」
高橋の説明に、柏木は固まるしかない。
「僕はただ商談に来ただけなのですが・・・」
「先生がただの商談でこの別荘を指定することはないわ。ご愁傷様」
言いながらも、高橋は楽しんでいる。
「ち、因みに真ん中の部屋は?」
「ああ。笠原君よ。彼、付き合いは一番長いわよ」
その言葉に、先ほどの笠原の態度に合点がいった柏木だった。
「山内先生はバイなのよ。だから、その顔じゃあ、気を付けていても無駄よ」
ひらひらと手を振りながら、高橋は階段を下りて行った。
ぐったりと疲れた柏木は、既に帰りたくなっていた。
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