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程よく離れた場所では、子供達が掃き溜めた楓の葉の山に手を突っ込んでいる。
『ほんに、子供は元気じゃのぅ』
ふわりと落葉する葉の先を追えば、そこには絵巻物にかかれるような重ねの着物を来た美女がいた。
楓の枝に器用に腰かける美女は扇で口許を隠すと『ふふふっ』と笑う。
「さっきはありがとう。お陰で二人に怪我をせずに済んだわ」
『礼には及ばんのぅ』
長い黒髪を宙に遊ばせ重さを感じさせない姿は天女のようだった。
実際、美女が人ではないことを母親は知っている。
『妾にとっても大事な童達じゃからの、当然のことじゃ』
美女はフワリと母親の横に着地をするとクルリと一周回ってみせる。重たいはずの着物の裾が重力に逆らいスカートのように舞い上がる。
『どうじゃ、今年も妾は綺麗じゃろて』
ふふふっと笑う美女に母親は少し胸を張る。
「当然よ~、なんてったって私が手入れしてるんだから」
私は母親であり、町一番の庭師でもあるのよ。
『ふむ。確かに妾の世話をしてきた庭師の中でも3位か4位に入る腕前じゃ』
美女は少し意地悪な笑みを浮かべると母親の頭を撫でる。
「微妙な順位をありがとー」
案の定子供のように母親は頬を膨らませた。
(『その年で』とならば、随一の腕前なのじゃが調子に乗るでのぅ)
ふふふっと笑う美女に共鳴して楓の木々がザワザワと揺れる。
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