4人が本棚に入れています
本棚に追加
―――――庭師達には昔から不思議な話が伝えられる。
この庭には庭師にしか見えない美女が住んでいる。
庭師の夢がここにはある、と。
『この年で妾の声が聞こえるとは、さすがお主の息子じゃ。行く先が楽しみじゃのぅ』
この辺りの庭師は度々ここを訪れては美女に話をする。
昔のこと、今のこと、未来のこと。
弟子を連れてきては美女を見つけたら一人前だと言う庭師もいる。
庭師達は美女を逢っては照れ臭そうに会話をするのだ。昔に比べれば、逢える人間はずいぶん減ったが、それでもなお庭師は絶えない。庭師達にとっては守護神なのかもしれない。
いつのまにか、最後には祈るのだ。
過去から紡いだ自分達の見事な庭々が、未来にも色褪せることなく有ることを。
「貴女の世話は庭師の誉れだもの。絶対継がせてやるんだからっ!!」
母親は手を腰に当てて言い切る。
この先、この庭がなくなることはない。大丈夫。
この身に流れる血は面白いくらい同じ道を辿る。
『間違いなく継ぐことになるのぅ、あの女子を嫁に貰ってゆくゆくは妾の世話をするのじゃ』
何といっても楓の葉を妾の前で鑓水に流し、天の川ようだと、その女子と共に眺めたのだから。
「教えた訳じゃないのに何でアレを知ってるのかしら……私もそうだったけど、一族の永遠の謎ねぇ」
両腕いっぱいの落ち葉を抱えた子供達を見ながら母親は呟く。
「私がやった時も父さんは驚いてた?」
『複雑そうな顔をしておったよ』
親子揃って聞くことまで同じだ。
最初のコメントを投稿しよう!