遣り水、流す

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―――――庭師達には昔から不思議な話が伝えられる。 この庭には庭師にしか見えない美女が住んでいる。 庭師の夢がここにはある、と。 『この年で妾の声が聞こえるとは、さすがお主の息子じゃ。行く先が楽しみじゃのぅ』 この辺りの庭師は度々ここを訪れては美女に話をする。 昔のこと、今のこと、未来のこと。 弟子を連れてきては美女を見つけたら一人前だと言う庭師もいる。 庭師達は美女を逢っては照れ臭そうに会話をするのだ。昔に比べれば、逢える人間はずいぶん減ったが、それでもなお庭師は絶えない。庭師達にとっては守護神なのかもしれない。 いつのまにか、最後には祈るのだ。 過去から紡いだ自分達の見事な庭々が、未来にも色褪せることなく有ることを。 「貴女の世話は庭師の誉れだもの。絶対継がせてやるんだからっ!!」 母親は手を腰に当てて言い切る。 この先、この庭がなくなることはない。大丈夫。 この身に流れる血は面白いくらい同じ道を辿る。 『間違いなく継ぐことになるのぅ、あの女子を嫁に貰ってゆくゆくは妾の世話をするのじゃ』 何といっても楓の葉を妾の前で鑓水に流し、天の川ようだと、その女子と共に眺めたのだから。 「教えた訳じゃないのに何でアレを知ってるのかしら……私もそうだったけど、一族の永遠の謎ねぇ」 両腕いっぱいの落ち葉を抱えた子供達を見ながら母親は呟く。 「私がやった時も父さんは驚いてた?」 『複雑そうな顔をしておったよ』 親子揃って聞くことまで同じだ。
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