第13章 混沌

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   アイツは会って次の日から俺の事を馴れ馴れしく『咲』と名前で呼び始めた。  26歳で同い年という事とアイツが時々口に出す関西弁のせいか、いつの間にか俺のデスクの仲間とも違和感なく会話で盛り上がったりしている。  女子もそうだけど男からも好かれるタイプってこういうヤツの事を言うんだな・・・  どこ行っても上手くやれる器用な男に見えるけど、話している内にアイツにも悩みがあると気付いた。  それは多分・・・ていうか絶対女絡みの事だ。  傍から見ればそんな悩みあるワケ無さそうなんだが・・・  まあ残念ながらリアルな女の事については俺は詮索できない・・・というかそこまで踏み込むべきではないと思ってる。  アイツが俺に話すなら聴いてやろうとは思うけど俺から聴く程そこまで仲が良いワケじゃあないと思うから。  咲は廊下を歩いて自分の部署へ戻ると椅子にドカッと座った。  そして椅子をくるりと回転させて開いたままのPCをシャットダウンさせる。  どうやら今日の仕事は終わっていて、咲が帰ろうとした矢先、編集長に捉まったらしい。  「なーに抱えてんだか・・・」  フーッと息を吐くと咲は立ち上がり会社を出た。  午後22時 ― 咲の勤めている周友社がある渋谷の街はざわざわと大勢の人々が行き交い、何処からともなく楽しそうな会話が聞こえてくる。  その中を咲は慣れたように人を避けながら駅を目指し歩いて行く。  でもアイツ・・・ゲームの時はやたら話すんだよな?  リアルではあまり聴かない、アイツのSっぽい話し方。  会社の女子社員の前では爽やかな笑顔で話してるくせに・・・やたら《ティア》に絡むし。  《ティア》は俺がゲームの中で入ってるギルド(サークルみたいなもん?)の仲間で回復専門の通称(癒しの女神)だ。  性格は真面目で大人しく、優しい・・・と勝手な想像だが俺はそう感じてる。  《ティア》は周りの者全てに気を遣っているような気がして、実際会っているわけでもないのに「いい子だな」と俺は思うようになっていた。  もちろん、これはあくまでゲーム・・・現実じゃない事は解っている。  
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