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燃える玉座の間に、残された魔王が独り蹲る。
誰も助けに駆けつけない辺り、もう魔王の元に駆けつけられる魔物の部下も残ってはいないのだろう。勇者と同じく、連れられた仲間たちも相応の力を身につけているのだ。
「くっくくく……勇者――我が息子よ。お前は本当に強くなった。まさか、まさか本当に、この私を討ち負かすとは……くくく、笑いが止まらんよ」
城は焼け、魔王も倒れ、その部下すら残されてはいない。正真正銘、最期の時である。にも関わらず、魔王は血を吐き喘ぎを漏らし、なお笑い続けていた。
「……ちょうど十年前。まだ一国の王として在った頃、私は考えた。やがて国を継ぐであろうお前の成人の日、その喜ばしき日に与えられる最高のプレゼントが、何であるか」
よろよろと這い、まだ炎の回っていない壁際に移動すると、背を凭れさせ息を吐く。霞み始める魔王の視界は、炎の中に別の景色を見せ始めていた。
「何せ国一つを受け継ぐ身だ。私個人から何を与えても、それ以上だと思えるものが思いつかない。私は考えに考え、そしてようやく一つの結論を導き出したのだ」
小さな子どもが走り回る。それを微笑みながら見つめる男女、そして家臣たち。在りし日の小さな幸せが、揺らめく炎に幻視される。
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